文藝・学術出版鳥影社

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書評
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『夏の家』古岡孝信 著
**新聞 極私的土俗神話 平成19年(2007年)

言葉の森から 小説編 <1~3月> 評者・松下 博文

(前略)
 「夏の家」のラストは風葬のシーンだ。埋葬される人物は廃品回収を業としてきた在日朝鮮人の除奏吉。葬送は、円福寺住職、泣き女のタネ婆さん、奏吉とタネ婆さんの間に不義の子として生まれた光男の三人で執り行われた。
 タネは同行の光男が40年前に堕胎したあの赤ん坊であることを知らない。光男は住職の手によってひっそりと他所に引き取られていた。光男はおそらく誰が実の父母であるかわかっている。しかし奏吉もタネもそれを嗅ぎつけながらも光男の実際の出生は知らされていなかった。
 <長イ間ニハ、イロイロアル>――在日朝鮮人として差別されて生きてきた奏吉の人生、堕胎を強いられ子供の存在を知らずに生きてきたタネの人生、父母の存在を葬り去って孤児として生きてきた光男の人生――それぞれに翳を背負って人生を歩いてきた。
 風葬と泣き女の習俗は朝鮮半島にも点在する。奏吉を風葬にしようとする作者の意図は明白だろう。負の歴史を背負わされた朝鮮人の魂は風葬に付されやさしい千の風になってこそ鎮められるのである。
(後略)

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