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『小堀遠州』中尾實信 著
奈良新聞 平成20年(2008年)5月25日

茶道で乱世生きた歴史絵巻 評者・嘉瀬井整夫(文芸評論家)

 茶道を身上として乱世を生きようとした小堀遠州。世を渡ることの至難さは、一通りの苦労では歯が立たぬ。才能、機知、胆力、決断、およそ考えられるものを、総力をあげてかからぬと大変なことになる。
 幼時から父正次から、いろいろなことを学びながら成長してきたが、人生における謎はいよいよ深まるばかり。
 本書は著者が「月刊遠州」に五年にわたり連載した「小説孤蓬平心」をまとめたものである。その登場人物の多数はもとより、主人公小堀遠州を縦軸に、歴史の流れを横軸にした。みごとな歴史絵巻になっていることは、いうまでもないだろう。うれしいことに奈良の称名寺の村田珠光も登場する。
 また、転害町の漆屋の松尾源三郎をはじめ、馬借集団を駆使して巨富を蓄えた古市澄胤等々、大和の住民にとってはおなじみの人物たちである。
 遠州は、ある意味ではマルチ人間であったといえるかもしれない。のちに作事奉公にもなるが、建築のことにも精通していたのだ。茶道における細かな神経が、建築の世界にも通用したということだ。
 もちろん作庭もするから庭師としても一流である。それは方々の庭を見て回り、みずからの目を養うことであった。武将や茶人たちとの語らいも重要で、時にはまつりごとに関する質問を受けることもあった。
 一方では書をはじめ、美術品に対する知識も求められたり、ディレッタントとしての素養が必要であったから、神経の休まるときが少なかったといえる。
 歴史の流れは、関ヶ原の合戦が終わり、豊臣秀吉の時代が終わり、徳川家康の登場によって徳川時代の幕開けとなる。その間、めまぐるしい人事の更迭があり、複雑な人間関係を見せられる。
 しょせん、乱世の時代を、どう生ききるかは、永遠の課題であろう。人を倒し、踏み越えていくのは、不変の真理であり、善意のみでは生き残れぬことを告げている。ある意味では人生不可解だ。ここに空前の歴史絵巻がある。

『小堀遠州』中尾實信 著
週刊読書人 平成20年(2008年)5月9日

一茶人の生涯を描く 評者・待田晋哉(読売新聞大阪本社記者)

 

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