価格
1650円(税込)
ページ数
264ページ
発行日
2017年11月25日
ISBN
978-4-86265-629-2
緑の国の沙耶
塚越淑行
- 塚越淑行著『挽歌』好評発売中
- 〈小島信夫文学賞佳作〉
樹々の緑のそよぎ、水の流れの透明さ……、アイルランドを舞台にした一人の日本女性の生涯。彼女は未知の男と出逢い、複雑な人間関係の中で30年以上を異郷に暮らす。日本人としての違和感をもちながら、アイルランドの文化を自分のものとしていく。『緑の国の沙耶』はそういう物語だ。(文芸評論家・青木健)
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異境に生きる女性
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リアムの亡くなる数時間前、薬を与えようと部屋にはいっていくと、もう要らないとリアムはいった。
「飲んで、さもないと治らないわよ」沙耶は懇願した。「そうして治ったら今度こそ旅へ出ましょう、お姉さんのところは無理でもアラン諸島へ、あなたは約束したのよ」かすかに笑みを浮かべてリアムは首を振る。「それよりも僕を起こしてくれないか」沙耶はうなずき、腕をさしこんで抱き起こす。ベッドの背に寄りかかるリアムに、何? と目で問うた。
「きみを抱いてあげたい、きみを抱いてやれるこれが最後だ」うるむ目で見つめかえしながらいうのだった。
思わず体をあずけ頬をあわせた
リアムは静かに、ありったけの力で抱きしめてくれた。あらゆる不満が砕けていった。(本文より)
目次
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緑の国の沙耶
アトランティックウエザー
荒 地
あとがき
著者略歴
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塚越 淑行(つかこし よしゆき)
栃木県足利市生まれ。
慶應義塾大学卒業。