漱石と熊楠 同時代を生きた二人の巨人
三田村信行
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いま二人の巨人の生涯を辿る。
同年生まれ、イギリス体験、猫との深い因縁。〈森の人〉と〈都会の人〉のかけはなれた知性が存在し生きた時代には活力と幅の広さ、深さがあった。異質な二人の生涯を並列させてその地平から見えてくる〈風景〉とはなにか。
- 熊楠は、人間をはじめ全てを包蔵する〈この世界〉の秘密の解明に向かい、漱石は「個」の内部に錘鉛を下ろし、〈この世界〉に生きる人間の内実を追究した。そう考えてくると、少し大袈裟かも知れないが、近代から現代にかけての大方の思想潮流は、漱石と熊楠の間にすっぽりとおさまってしまうような気がする。そしてそれが、漱石と熊楠の間、その隔絶の意味なのである。〈「終章」より〉
目次
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序 章 二人の巨人
第一章 少年期
土地と名/余計者と神童/少年の風景
第二章 父の肖像
名主の家/変わる境遇/軽蔑と尊敬/母への思い
第三章 遁走のドラマ
遁走への序曲/隠された動機/迷走する青春/不安な神経
第四章 イギリス体験
幸運な出会い/不運な暗転/「西洋」の重圧/孤独の賭け
第五章 二つのロンドン
船上の二人/大英博物館・ハイドパーク・下宿/漱石のお洒落、熊楠の無頓着/〝素人学者〟と専門学者/交友の明暗
第六章 帰国後の二人
帰国の情景/失意の日々/再生への模索/曼荼羅と猫
第七章 森と都会
森の危機/たたかう熊楠/職業作家漱石/都会の人
第八章 家庭生活
〈悪妻〉対〈良妻〉/子どもたち/人々のなかで
第九章 手紙と日記
漱石の手紙好き/書簡の思想家/日記から/夢の記述と表現
第一〇章 終焉まで
別れの季節/心の問題/晩年の風景/その後の熊楠
終 章 漱石と熊楠の間
あとがき
参考文献
漱石と熊楠関係年表
著者略歴
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三田村信行(みたむら のぶゆき)
1939年東京に生まれる。
早稲田大学文学部卒業。児童文学作家。
主な作品に、「おとうさんがいっぱい」「風を売る男」「ものまね鳥を撃つな」「風の陰陽師」などがある。